第8回|最終測定・成長の確認

この章で押さえる3つのこと

  1. 今日は、第1回と同じ項目を、同じ条件で測り直す日です。比べる相手は、2ヶ月前の自分です
  2. 見るのは「伸びたか」だけではありません。何が変わり、なぜ変わったのかを、身体 → 投球 の順で確かめます
  3. 結果は、次の目標と練習を決める材料です。PDPのゴールは、ここから先の練習を 自分で設計できる状態 になることです

この回の目的

第8回の目的は、ひとつです。

第1回よりも、成長しているかを確かめること。

第1回のゴールは、「自分の現在地を知ること」と「怪我のリスクを減らすこと」でした。 あの日に取った現在地が、2ヶ月でどう動いたのか。今日は、それを 数字と映像 で確かめます。

そのために、今日の測定は 第1回と同じ項目・同じ条件・同じ順番 で行います。 条件を変えると、変わったのが自分なのか、測り方なのかが分からなくなります。2ヶ月前の自分と、公平に比べるためです。

今日も、全力でやってください

第1回でも伝えた通りです。手を抜いた記録が残ると、比較が意味を失います。 良く見せる必要はありません。ただし、今の自分の全力は出し切ってください。

私は、指導の背骨を 評価 → 仮説 → 改善 → 再評価 のサイクルに置いています。 PDPで言えば、第1回が最初の「評価」。第2回〜第7回が「仮説」と「改善」。 今日の第8回が、「再評価」 です。


第8回で行うこと

第1回と同じく、2軸 で測ります。順番も同じで、身体の評価が先 です。

軸① 身体評価

項目 見るもの
開脚 股関節の可動域
ブリッジ 胸椎の伸展と、肩の可動域
回旋可動域 身体をどれだけ捻れるか
しゃがみ込み 足首と股関節の連動
呼吸(CP) 体幹を支える土台が働いているか
肩・肘のコンディション確認 痛み・違和感の有無と、可動域

軸② 投球評価

項目 見るもの
SmartScout|投球指標 球速・回転数・回転効率・回転方向・ジャイロ角度・変化量
フィジカル測定 身長・体重/立ち幅跳び/MBチョップスロー
動画|投球分析 7局面の通過と、投手タイプ

測定の範囲も、第1回と同じです。


条件をそろえる

比較が成り立つかどうかは、条件がそろっているか で決まります。第1回と同じにするのは、次の点です。

そろえるもの 第1回と同じ条件
球数 1人15〜20球(ストレート10球+変化球 各球種3〜5球)
ボール 中学生以上は硬式球、小学生は軟式球
立ち幅跳び 両足で踏み切り、両足で着地。2回 測る
MBチョップスロー 1kg のメディシンボール。左右 3回ずつ、いちばん良い記録を採用
動画 正面・側面から 各5球

痛みがある時は、測定より身体が先です

今日、痛みや違和感がある選手は、無理に測りません。正確な記録より、身体のほうが大事です。 今まさに痛みがある場合は、まず整形外科で診てもらってください。


測る前に、自己評価を書く

数字を見る前に、ひとつやってほしいことがあります。

この2ヶ月で、自分は何が変わったと思うか を、先に書いておくことです。

理由は、客観的な評価と自己評価は、ずれていることが非常に多い からです。 「良くなった」と感じていた所が数字では動いていない。逆に、気づいていなかった所が伸びている。どちらもよく起きます。

このずれを知ることが、今日のいちばん大事な収穫のひとつです。 ずれを修正しながら、自分がなりたい方向に向かい続ける。これが、この先も自分で伸びていくための力になります。


第1回と比べる

測定が終わったら、第1回の記録と並べます。下の表を、自分の手で埋めてください。

項目 第1回 第8回 変化 なぜ変わったか(変わらなかったか)
開脚
ブリッジ
回旋可動域
しゃがみ込み
呼吸(CP) 秒 秒
肩・肘
体重 kg kg
立ち幅跳び cm cm
MBチョップスロー(左・右)
球速(ストレート)
回転効率(ストレート) % %
縦・横の変化量(ストレート)
変化球(球種ごと)
動画(いちばん変わった局面)

「なぜ」の欄が、いちばん大事です

変化の欄は、数字を引き算すれば埋まります。 「なぜ変わったか」を自分の言葉で書けるかどうか で、この先の伸び方が変わります。 分からない所は、空けたままでかまいません。そこは、聞いてほしい所です。


結果の見方

順番は、身体 → 投球

第1回で伝えた通り、投球のデータは「結果」 です。 球速も、回転効率も、変化量も、身体がどう動いたかの結果として出てきた数字です。

だから、見る順番は 身体評価が先 です。

  1. 身体評価 は、どう変わったか(開脚・ブリッジ・回旋・しゃがみ込み・呼吸)
  2. フィジカル は、どう変わったか(体重・立ち幅跳び・MBチョップスロー)
  3. 動画 で、7局面のどこが変わったか
  4. その結果として、投球のデータ がどう変わったか

この順番で並べると、数字が動いた理由が見えてきます。

伸びた項目

伸びた項目は、何が変わったから伸びたのか を、身体評価と動画とセットで確かめてください。

たとえば球速が上がっていたら、身体の可動域が広がったのか。フィジカルの出力が上がったのか。7局面のどこかで、エネルギーが逃げなくなったのか。 理由が分かった伸びは、再現できます。理由が分からない伸びは、また消えることがあります。

変わらなかった項目

変わらなかった項目、下がった項目が出ることもあります。

ここは、次の「仮説」を立てる材料 です。 評価 → 仮説 → 改善 → 再評価のサイクルで言えば、変わらなかった所が分かったことで、次に何を試すかが決まります。

現在地を知らないまま練習を続ける選手と、「次はここだ」と分かったうえで練習を続ける選手 では、この先の伸び方がまったく変わります。

体重と、除脂肪体重

第1回の課題で、毎日の体重測定 をお願いしました。 2ヶ月分の記録があれば、今日の数字だけでなく、どう推移してきたか も見てください。

野球は、パワー競技です。パワー=力×速度。 野球選手は、除脂肪体重(筋肉・骨など、出力を生む部分)を増やすことが、活躍の鍵になります。体重の推移は、そのいちばん身近な指標です。

数字は「優劣」ではなく「現在地」

今日の数字も、誰かと比べて順位をつけるためのものではありません。 自分の現在地を知り、次に何をするかを決めるための材料 です。


2ヶ月を、7局面でふりかえる

PDPは、7局面を順番どおりに積み上げてきました。

回 テーマ 目的
1 初回測定・現状把握 自分の現在地を知り、怪我のリスクを減らす
2 ①レッグアップ+②ロード 地面から力をもらう、出発点をつくる
3 ③ドライブ+④フットプラント 地面への圧を、この回で完結させる
4 ④フットプラント〜⑤ローテーション 並進の力を回旋に変え、捻れを最大化する
5 ⑥リリース+⑦フォロースルー 積み上げた力をボールに乗せて離し、安全に止める
6 ピッチデザインと握り 手と指とボールを知り、自分の球を設計する
7 コンディショニング 作ってきた投げ方を、毎回同じように出し切る
8 最終測定・成長の確認 第1回よりも成長しているかを確かめる

動画で「いちばん変わった局面」が見つかったら、その局面を扱った回のテキストとアーカイブに戻ってください。 なぜ変わったのかの答えは、たいていそこに書いてあります。

まだ課題が残っている局面も同じです。手前の局面から 見直してください。 投球は一本につながった動きで、手前で起きたことが後ろに全部出ます。修正は、前の局面から行います。


目標を、更新する

第1回の課題④で、PDP終了時の自分 について3つを決めてもらいました。

  1. 2ヶ月後、どれくらいの球速を目指すか
  2. (中学生以上)どんな変化球を投げられるようになりたいか
  3. どんな形(どんな抑え方)で、打者を抑えるのが理想か

今日の結果と照らし合わせてください。届いたもの、届かなかったもの、目標そのものが変わったもの。どれもあっていいです。

そのうえで、次の目標を決め直します。

区分 期間
長期 5年後・3年後・1年後
中期 半年後・3ヶ月後
短期 1ヶ月後・1週間後・1日

できるだけ具体的に決めてください。仮決めでかまいません。 大事なのは、決めた目標に向かって 日々行動し続けること です。毎日の体重測定も、その行動のひとつです。


「試合で投げる」が、いちばんの経験

PDPの2ヶ月で扱ってきたことは、すべて 試合で投げるため のものです。

「試合で投げる」。これが、いちばんの経験 です。 そこで出た課題を潰していくのが、練習です。

PDPでは、そのためのヒントを7局面・ピッチデザイン・コンディショニングと、いろいろな角度から伝えてきました。 最終的には、試合で活躍する投手になってもらうこと。これが、PDPの目的です。

第1回で確認したPDPの最終ゴールは、2つでした。 ピッチングの本質を理解し、今後の練習方法と方向性を、自分で定められるようにすること。 野球の、ピッチングで、自分自身の目標を達成できるようにすること。

今日の測定は、その1つ目ができているかの確認でもあります。 自分の現在地を数字と映像で読み、次に何をやるかを自分で決める。それができれば、PDPが終わっても成長は止まりません。


PDPが終わったあとも

テキストは、これからも更新し続けます。 メニューの作成と、動画の分析も、引き続き行っていきます。

今日埋めた比較表と、決め直した目標が、その出発点です。


第8回のまとめ

今日は、第1回と同じ項目・同じ条件で測り直し、2ヶ月前の自分と比べる日 でした。

見る順番は、身体 → 投球。投球のデータは、身体がどう動いたかの結果です。 伸びた項目は、なぜ伸びたのかを確かめる。変わらなかった項目は、次の仮説の材料にする。 そして、自己評価と客観的な評価のずれを知り、修正しながら、なりたい方向に向かい続ける。

評価 → 仮説 → 改善 → 再評価。 このサイクルを、ここから先は 自分で回していってください。

2ヶ月間、お疲れさまでした。


次にやること(PDPのあとの行動リスト)

  1. 比較表を最後まで埋める:「なぜ変わったか」の欄まで、自分の言葉で書く
  2. いちばん変わった局面と、次に取り組む局面をひとつずつ決める:その回のテキストとアーカイブに戻る
  3. 目標を長期・中期・短期で決め直す:仮決めでいい。決めたら、毎日の行動に落とす
  4. 体重測定を続ける:除脂肪体重を増やすことが、活躍の鍵になる
  5. 試合で投げて、出た課題を練習で潰す:分からないことは、黙らずに聞いてほしい

用語集

本文中の専門用語(リンク色の語)をタップすると、ここに飛びます。各語にカーソルを合わせると説明も表示されます。

用語 意味
SmartScout スマホで撮影するだけで投球を解析できる計測アプリ。球速・回転数・回転効率・変化量などを数値化する
7局面 投球の中継点。レッグアップ→ロード→ドライブ→フットプラント→ローテーション→リリース→フォロースルー
アトラクター 良い投手に共通して現れる動作の核。再現性ある投球の中心軸
エネルギーフロー 地面から生まれたエネルギーが、下半身→体幹→腕→指先→ボールへ途切れずに流れること
CP(コントロールポーズ) 自然に息を吐いたあと鼻をつまみ、「吸いたい」と感じるまでの秒数を測る、呼吸の状態を知るための簡単な測り方
RFD 力の立ち上がり速度。どれだけ速く力を発揮できるかを示す指標。立ち幅跳びで見る
除脂肪体重 体重から脂肪の重さを除いた重さ。筋肉・骨など、出力を生む部分の量
回転効率 ボールの回転のうち、変化や揚力の発生に寄与している回転の割合